【リポート】「博多人形師・小副川祐二氏 母校で体験授業」リポート
「博多人形師・小副川祐二氏 母校で体験授業」
<リポートvol.1>
博多人形師・小副川祐二さんの母校である福岡県立福岡工業高等学校で、博多人形の
製作を体験する授業が行われました。
(体験授業は2022年1月~2月に実施されたものです)
今回のリポートは、この体験授業のようすをご紹介していきます。
この取り組みは、同校の染色デザイン科1年生の専門教育を目的とした授業の一環で
生徒に熟練の知識や技能を学ばせる「体験授業」として平成17年から始まりました。
小副川さんに講師の依頼が来たきっかけは、同校の開校50周年を記念して卒業生とし
て講演を行ったことだったそうです。
小副川さんは講演の中で「継続は力なり」という言葉で自身の人生経験を話されたそ
うです。その言葉通り、博多人形師として第一線で活躍されている経験や技術を生徒た
ちに学ばせたい、という想いが一致し、体験授業として毎年行われています。
小副川さんは「中学・高校・大学を経て進路に迷った時期もあったが、人形師という道
を選び、一生の仕事として今も続けられています。この授業を通して、生徒の皆さんに
将来何かの役に立ってもらえれば、そして母校に恩返しができればという想いで受けま
した。」と、当時を振り返ります。
それでは、その体験授業のようすを紹介していきましょう。
一般的な体験教室では、素焼きの人形に彩色をする体験が多いのですが、同校の授業は
専門分野を学ばせるということで、博多人形を粘土から型押し・彩色まですべて一人で
つくりあげるという内容のものでした。博多人形の型押しは簡単に出来るものではあり
ませんが、敢えて複雑な型から生地を作ることで挑戦させるという徹底ぶりでした。
生徒達には事前に、今回製作する人形のデッザンが渡されており、各自イメージを膨ら
ませて製作に挑みました。
<今回制作する人形>
1回目の授業は生地作りです。
石膏型に粘土を押し入れて生地をつくる工程に挑戦です!
今回製作する人形1体を作るには型も複雑で、頭、体、手、足のパーツに分かれて
います。このパーツに粘土を押し入れて生地を作っていきます。
まずは繊細な顔の部分のある頭からです。
生徒たちは初めて触る粘土を型に押し入れていく作業に悪戦苦闘。
粘土の厚さを調整しながら片面づつ作り上げていきます。
前後2枚の型を重ねて立体にするため、しっかり接着させます。
型から抜いた後のつなぎ目の状態などを予想しながら作っていかなければなりません。
型から抜き、頭の生地がようやく出来上がりました。
要領が分かったところで、体、手、足を次々と作っていきます。
続いてそれぞれのパーツを繋ぎ合わせていきます。
重ねた部分の余分な粘土を削ぎ取りながら表面をきれいに整えます。
ようやく1体の人形の生地が出来上がりました!
生徒たちに感想を聞いてみると、皆さん口を揃えて、
「粘土を型に入れるところ、厚さなどの加減が分からず、すごく難しかった。」
「型から抜くのがスムーズにいかなくて、思った以上に大変だった。」
「ひとつの人形を作るのに、こんなに型が必要だと思わなかった」
と、作ってみて新たな発見や、ものづくりの大変さなどを実感したようでした。
1回目の授業を終えて、生徒代表より小副川さんに挨拶です。
「博多人形を知らなくて着物を着ている人形と思っていました。型に粘土を入れてつく
る作業など、はじめてのことばかりで難しかったですが、みんな上手くできました。
2回目もよろしくお願いします。」
これで1回目の授業は終わりです。皆さんお疲れ様でした。
作品はこの後、小副川さんの工房で、乾燥・焼成して素焼きの状態になります。
2回目の授業はこの素焼きの状態から彩色に入っていきます。
※1回目の体験授業は2022年1月12日に実施
<リポートvol.2>
2回目の授業は、生徒の皆さんの得意分野「彩色」です。
1回目の授業で粘土から製作した生地を素焼きしたものに、それぞれが考えたデザイン
や色をイメージしながら描いていく工程です。
さすが生徒の皆さんの得意分野「彩色」です。
着物や髪の毛など生え際も描きながらスムーズに筆が進んでいます。
しかし難関は、人形作りで一番繊細な“面相”です。
極細の面相筆の筆使いはとても難しく、思うように目が描けず筆が進みませんー
ここは集中力が問われます。
少し面相には手こずりましたが、さすが皆さん!
個性豊かな作品の完成です。
生徒さん何人かに感想を聞いてみました。
新開あすかさん 作品名「さちこ」
目を描く時の筆の使い方が難しかったです。黒い帯に赤いバラを描き“カッコイイ”
けど“カワイイ”を表現しました。バラの花とグラデーションを見てほしいです。
松下もも香さん 作品名「さくら」
博多人形をどうやって作っているのかは知らなかったので、型に粘土を入れて一から
自分で作るというのを学んでみて、とても難しかったです。春をイメージした着物の柄
と顔の表情を見てほしいです。
池田圭佑さん 作品名「坂田」
アニメのキャラクターを人形に表現しました。
顔にひびが入らないように作るところがとても難しかったです。
オリジナルで袖の模様を工夫してみたのでそこを見てほしいです。
武藤杏梨さん 作品名「れんな」
型に粘土を入れるのが一番難しかったです。蓮の花が好きなので、朝焼けの蓮の花を
イメージして表現しました。先生からは蓮を立体的に見えるように筆使いのアドバイス
をもらったりとても楽しかったです。博多人形が身近に感じられるようになりました。
坂本修也さん 作品名「えいきち」
粘土をくっつける際の組み合わせのところや、パーツとパーツの間に色を入れるのが難
しかったです。博多人形を見たことはあったけれど作り方がこんなに複雑で難しいとは
思わなかったです。作品はみんなが見て明るい感じになるよう表現しました。
江頭唯可さん 作品名「ののか」
「楽しい」雰囲気にしたかったのでお花とオレンジ色で人形全体に表現してみました。
2回目を終えて生徒代表より挨拶です。
「2日間私たちのためにありがとうございました。粘土で作ったり、色の付け方などが
難しかったですが、自分たちのいい作品ができました。普段触れることがなかった博多
人形のことが知れて良かったです。」
最後は小副川さんより、
「色彩は皆さん勉強されているので、頭、着物、台の色のバランス・組み合わせも
良く、感心しています。私も皆さんのデザインや色使いを見て刺激を受けました。」
これで2回にわたって行われた博多人形作りの授業は無事終了しました。
最後の3回目の授業は品評会と総評になります。
※2回目の体験授業は、2022年2月2日に実施。
<リポートvol.3>
体験授業も最後となった3回目は、生徒全員による作品の品評会と総評です。
2回の授業で学んだことを、いかに作品に表現できているかという部分を踏まえて、
生徒たちが自分たちで作品を評価し合うという経験を積ませる授業です。
「色のバランスがいい」「デザイン性がある」など、授業で学んだポイントを考え
ながら生徒たちは作品の評価をしていきます。
さらに小副川さんの粋な計らいで「小副川賞」も発表され、プロの目からみた作品の
評価をもらい、選ばれた生徒たちは思わぬサプライズに大喜びです。
<完成した作品>
最後に3回目を終えて生徒代表より挨拶です。
「人形作りは難しかったですが、想像していたものができました。この授業を受けて
伝統工芸についてもっと調べてみたい、そして勉強してみたいと思いました。」
また、昨年の授業を受けた生徒代表より、小副川さんに記念品が渡されました。
最後に、小副川さんの総評です。
「博多人形の型押しは、初めての人には難しく形にならないのですが、皆さん初めてと
は思えないほど、筋が良く上手に出来ていました。彩色は、想像を超えた色合いや表現
力に驚きましたが、若い世代の皆さんの感覚を業界にも取り入れさせてもらいたいと刺
激を受けました。ものづくりは基礎をきちんと学ぶこと。目新しいものがいいというわ
けではなく、基礎があった上での独創性が大事です。小さなことに囚われず、これから
もその感性を忘れずにいろいろな事にチャレンジしてほしい。」
この体験授業を担当されて10年になるという尾花先生は、
「この授業を通して、生徒たちが積極的に楽しんで習得しようとしている姿や、みんな
に見てもらえる発表の場や、専門のプロの評価が受けられることで、生徒たちの新たな
一面や成長を見ることができます。専門教育の一環として今後も続けていきたい」
と、毎年生徒の成長を見守られています。
校舎の中には、生徒たちが授業で製作した作品が展示されていました。
今回、3回の授業を取材させていただき、ここまで充実した体験授業ができるのも、
産学官連携産業人材育成事業を継続的に行っている同校の教育方針と、先生方の生徒に
向き合う熱心さが成しえるものだと感じました。
※3回目の体験教室は2022年2月14日に実施
博多人形を知らない、見たこともないという世代が増える一方で、このような活動を
通して、地元福岡に日本を代表する伝統工芸があること、その技術やものづくりのすば
らしさを学んでもらうことで、次世代に繋ぐきっかけのひとつになるのではないでしょ
うか。
今回のような活動は規模の大小はありますが、いろいろな所で行われています。
はかた伝統工芸館では、伝統産業の振興と発展、次世代への継承・育成に努めながら
地域社会に貢献を目指し活動しています。これからも、もっと多くの方々に知っていた
だき、興味を持ってもらえるよう情報発信して参ります。
小副川祐二さんと染色デザイン科1年生のみなさん
【取材協力】
福岡県立福岡工業高等学校
博多人形師・小副川祐二氏